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作曲家/ピアニスト 武藤健城(イーガル)の公演情報などなど日々の白昼夢。


by takekiygalmuto

美しきアジアの玉手箱2

「美しきアジアの玉手箱 シアトル美術館所蔵 日本・東洋美術名品展」続き。

さてさて、そして、若干雑多な感の否めなかった、しかし、素晴らしい美術品群を抜けると、そこには絢爛豪華な屏風絵が並ぶ。
やはり狩野派の屏風絵の美しさや豪華さというものはいつ見ても素晴らしいと思う。
今回見た中では狩野興以の「竹虎図」や狩野重信の「竹に芥子図」など、その大きな面に描かれた美しい構図とその中に揺らめくような物語に時間を忘れてゆく。
しかし、いつも思うけれど、どうして日本人はこんな絢爛豪華な屏風や襖絵に囲まれながら生活できたのか、と不思議に思う。あまりにも圧倒されるような虎を真正面に据えた屏風や、煌びやかな世界を生活の中に置くということが、今の僕にはまだ理解が出来ない。美術品としての美しさはとても心惹かれるけれど、これが家にあったら…、と思うと、何とも複雑な思いがする。

そして、シアトル美術館展のチラシでも全面に描かれていた「烏図」
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金地に描かれたたくさんの烏。
その一羽一羽が明確に見分けがつき、それであるにも関わらず、すべてが一体となって金地と黒墨のコントラストがものすごい強烈なイメージとなって浮かび上がっている。

そこまで見て、やっと半分程度。相当疲れがたまりながら、下階に進むと、今回の最大の注目作本阿弥光悦書、俵屋宗達画の「鹿下絵和歌巻」がある。
この作品は、本来は22メートルの巻物で、前半部分は散断されて世界各地に散らばっていて、残りの部分が巻物の形のままシアトル美術館に所蔵されている。そして、その前半を復元したものと共に全貌が公開されていた。
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とにかく圧巻なのが、まず光悦と宗達の素晴らしい融和というか、二人の芸術家の作風が合致していて、その違和感の無さや美しさは比類が無い。
宗達の描く様々な鹿の美しい線。時にはなめらかな曲線で描かれ、さらにはたくさんの鹿が水を飲みに列挙している。
鹿は和歌の世界では秋の季語で、そこに光悦が秋を詠った和歌を新古今和歌集から選びとり、書している。
柔和な線で描かれた鹿の優しさの中に、墨の濃淡の美しさで書かれる和歌。秋の歌の中でも物悲しいものが多く、その侘しさが胸に迫る。
僕には、特に宮内卿の
思ふことさしてそれとはなきものを秋の夕べを心にぞとふ

円融院御歌
月影は初秋風とふけゆけば 心づくしに物をこそおもへ

前大僧正慈圓
いつもあでかなみだくもらで月は見し秋待ちえても秋ぞ戀しき

という和歌に魅かれた。
新古今和歌集にある、万葉集や古今集の時代には無かった現代性というものが、今の僕たちの感情にも近く、胸に迫るものがあるように思った。
そして、和歌の描かれた絵巻物の、絵と文字、そしてその行間や筆の美しさ、ひとつひとつの和歌の書かれ方や濃淡。そういうものが、例え文字が読めなくとも、ひとつのデザインとしても美しく捉えられる。
本当に良い作品だと思った。

その後には志野や織部があり、これがまた美しく、モダンなデザインで心をつかまれる。

それ以降の中国美術、韓国美術などもとても良くて、じっくり見てみたい気持ちもあったけれど、あまりの疲れに集中力は途切れ、足早に見て回った。


やはり、これだけの作品があると見る方も疲れるし、そこに一貫したコンセプトが見えにくいということが一つの難点であったと思う。さらに、現在開催されている他の展覧会に比べて、判りやすさという点では、群を抜いて劣っているような気もするし、派手さもあまり無い。そんなことで客足もあまりよくないように思えたけれども、それでもゆっくりと見れたことはとても良かった。
そして、僕が住んでいたボストン美術館にある日本美術とは違うものを見れたことに価値を感じた。
ボストン美術館の作品は、基本的に岡倉天心が収集をしたもので、日本人による日本美術の保護の観点からボストンへ持って行った部分が大きい。つまり、日本人の目から見たときの価値観で集められた作品なので、何かしら安心感を持って見ることができるし、そこには一見した派手さが強い作品は少ない。それは真に日本の美を知っていた天心だからこそのコレクションがあるように思える。
一方、シアトル美術館の所蔵品はアメリカ人の手による収集であることもあってか、一見した派手さ。デザイン性の高い作品が多いように思えた。
色のコントラストや、西洋には無い構図の美しさ。そういう作品が数多く、もちろん、慧眼なのだと思う。質の高い作品がたくさんあったけれど、こんなにも日本人の収集するものとアメリカ人の収集するものでは、価値の置かれる場所が違うのだ、と改めて感慨深い気持ちになったのでした。
by takekiygalmuto | 2009-08-16 10:45 | 日記