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作曲家/ピアニスト 武藤健城(イーガル)の公演情報などなど日々の白昼夢。


by takekiygalmuto

エシュノーズのラヴェル

ジャン・エシュノーズの『ラヴェル』を一気に読み終わりました。

100頁ちょっとの本だったのであっという間に読み終えたんですが、
西洋式バスタブの描写から始まる、どこかラヴェルの雰囲気を言い当てたような冒頭から「映像も、録音された声も残さなかった。」という一文で終わる最後まで、とらえどころの無いラヴェルの晩年が、とらえどころなく書かれているような気がして、とても楽しく読んだ。
これでラヴェルの曲でも聴きながら読めば色々思うところもあったのかもしれないけれど、
音も無い明け方に読み終えて、ちょっとすがすがしい気持ちになりました。

エシュノーズがどう思ったのか知らないけれど、この『ラヴェル』の中での音楽の描写は極端に少なく、音楽家を主人公にした物語にありがちな間違いだらけの音楽描写が全く見当たらず(というか音楽についてあまり書かれていないから見つからないに決まってるんだけど)、作者が意図的に音楽の専門的知識を避けて、作り上げたように思う。
大体、伝記映画や小説の問題点は、歴史上の人物であるがゆえに、第三者の主観で塗り固められた際に、完成度が高ければ高いほど、そのイメージが強くなってしまうことだと思う。
『アマデウス』はいい映画だけれど、ひとつのモーツァルト像がそこには出来上がり、それがモーツァルトのイメージとして定着してしまう。ひとたび、事実、として受け入れられてしまったときにそのイメージは覆しにくくなる。
この『ラヴェル』には、強烈なラヴェルのイメージはない。ただ、もやのように捉えきれないラヴェルの晩年が、捉えきれないまま書かれており、ひとつの強烈なイメージとしてラヴェルを捕らえることが出来ない。未だによく知られていないラヴェルの生活がそのまま、知られていない姿として書かれているところにすごく好感が持てた。

そんなわけで、これはモーリス・ラヴェルの伝記小説、というよりは、ラヴェルという題材を借りて、一つの表現をしようとしたエシュノーズの新しい小説なんだなぁ、と思いました。
そして、とてもいい小説です。
by takekiygalmuto | 2008-04-05 06:18 | 日記