わたくし、訳あって一ヶ月ほどタワマンというところに住んでおります。
タワマン、ええそうです、巷でウワサのタワーマンション。
ハイスペックなオサレピーポーがこぞって住んでいるというあのタワマンでございます。
理由は至って簡単でして、自宅をリノベーションしているので、
その間だけ違うところに住んでるわけですね。
ギリギリまでどこに一ヶ月住むか決めていなかったために
マンスリー貸しをしてくれる場所を探していたら、タワマンになってしまったわけです。
家具付きなんですけど、これがですね、なんというかミニマリストかというくらい何も無い。
電気調理器1つ、その下に洗濯乾燥機がついているという機能性重視の設計。
最小限を下回る調理器具類。
なんですか、この何もない空間は。
こんなところでずっと生活するなんて、とてもじゃないけれど僕には無理、というそんなところでございますが、
そこに楽器類を持ち込んで、とりあえず1ヶ月凌いで行こうと思っております。
ミニマリストイーガルは、ミニマリストらしく本なんかも全然持ってこなかったので、ちょろちょろ自宅に帰っては本を持ち出したりしております。
タワマンに来て読んだのは、
平井和正 「日本SF傑作選4 平井和正 虎は目覚める/サイボーグ・ブルース」
こちらは、日本屈指のSF作家の一人、平井和正の傑作選です。はい、タイトル通りで何の説明にもなってませんね。
この日本SF傑作選シリーズ、とにかく収録作品の選び方が素晴らしい。今回は、「サイボーグ・ブルース」が全編入っているという素晴らしさで、初めて読みましたが今読んでも古さを感じない素敵な物語でした。
さらに、「デスハンター エピローグ」が最後に収録されていて、これさ平井和正の「ゾンビーハンター」のエピローグなんですよ、ゾンビーハンターを読んで無かったらただのネタバレという、やはりSF好きのための選集。今回も楽しく読ませて頂きました。
小川哲 「ユートロニカのこちら側」
タイトルからちょっと雰囲気SFなのかしら、なんて思っていてごめんなさい。もっと深く、観念的なSFでございました。
個人情報を開示し、モニターされ続ける街の話です。連作短編という感じですが、このような個人情報開示、管理社会というものが近未来に訪れうるものとした上で、良し悪しは個人の見解の相違であって、善悪を問うものではない、というスタンスが素敵でした。
SFというよりは、SFガジェットを使った社会批評的な(批判的な、でも、肯定的なでもなく)、奥深い小説でした。
この本のあとがきを読んでいたら阿部和重の「インディヴィジュアル・プロジェクション」を読まざるを得ない気持ちになって(短絡的)、読むことにしました。
阿部和重 「インディヴィジュアル・プロジェクション」
ということで、「インディヴィジュアル・プロジェクション」。久しぶりの再読。初めて読んだときは、サラッと、ほへぇ、というような感想で読み終えた気もしますが、なかなか読み応えのある小説でした。
小説内で物語が進むにつれて、混乱する物語。人物が他の人物と同一化していき、それが誰のどんな主観に基づく、物語内の真実なのかが、見えなくなってゆく。明快な設定のうちに始まったはずの物語が、読み進めるにつれて胡散臭く、モヤのかかった混沌へと変わってゆく。それがエンディングで解消されたときに、あぁ、全くもう!という何とも言えない気持ちだけを残して終わってゆく。素晴らしいです。阿部和重作品、ちょっとまたいくつか読み返そうと思いました。
三浦俊彦 「エンドレスエイトの驚愕 ハルヒ@人間原理を考える」
涼宮ハルヒシリーズの短編で、ハルヒが夏休みらしいことをやり遂げるまで永遠のループを繰り返してしまう主人公たちを描いた「エンドレスエイト」がアニメ化されたとき、8週に渡って、ほとんど同じ物語が若干のセリフや衣装を変えただけで8回繰り返し放送されたハルヒファンドン引きの謎ムーブを見せた「エンドレスエイト」をモチーフに、人間原理からTV版「エンドレスエイト」を定義する、一応哲学書。いや、内容は哲学書ではなかったです。人間原理の話も出てきますが、様々なアプローチから「エンドレスエイト」を見た場合、どうあがいても駄作、失敗作である、と結論が出され、しかし、そこから別の分野のアプローチを仕掛けると、突然意義のある傑作として受け止めることが可能になるというような思考実験の本。
「エンドレスエイト」をコンセプチャルアートと定義してみたり、それをディナイしてみたり、色々こねくり回すと、宇宙生成の話にまで拡大していく、というとんでもなくアホらしい思考実験なのですが、面白かったです。
ただし、著者の言う結論に至るには少々強引な手続きが多すぎるので、これをそのまま真として受け止めるには難しく、「著者の命題が真であるのならば」という条件付きで成り立つ解であるように思います。理論の置き換えも、ちょっと飛躍しすぎてそこは丁寧な説明が必要だろう、と思うことも無きにしもあらずです。
あと、専門用語なのでしょうがない部分がありますが、実験音楽の文脈で、十二音音楽、セリー技法…という羅列があるのですが、これは誤謬でしょう。十二音音楽=十二音技法で、それはセリーを使ったものなのです。セリー技法は、トータルセリエリズムのことを指しているような気がしますので、再販される際は、十二音技法、トータルセリエリズム…に変えるのが妥当かと思いました。
まぁ、そんなことはさておいて、すごいしょーもない事柄を、様々な面から検討して、否定する。否、となったところに別の道筋を見出す。否定から答えを導く、というやり方。谷川渥先生の「美学の逆説」的な展開で、人間原理のロジックをたどっていくのは大変面白かったです。
もう最後の方は、理論がどーのとかいうよりも、突っ走っていく勢いに笑いっぱなしで読み終わりました。
大変、ためになる面白い本でした。
ハルヒファンじゃなくても楽しく読める本です。
さて、次は何を読もう。